2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

紫の雲…102

今となっては鉛筆を動かすことすらとても覚束なく、こうして少し書いただけでも、その線がとても奇妙に思えるし、お世辞にも達筆とは言いがたい。十七年、十七、十七、ああ!思考さえもうすらすらとは出てこない。単語をちょっと考えてみるとして、もしその…

銀齢の果て

「銀齢の果て」 筒井康隆著 新潮文庫 新潮社刊 を読む。 これから日本は超高齢化を迎えるが、これは現代版姥捨山としての、老人版バトルロワイヤル。眉を顰められかねないとんでもない題材を、遠慮もなく下世話にさらりと書いてしまうあたりはさすが筒井康隆…

紫の雲…101

計算では三ヶ月の予定だったが、九ヶ月かかった。つらい重労働だった。ぼくは列車の進路にある四十三台もの列車を爆破しなければならなかったが、何度となくレールごと吹き飛ばしてしまい、レールのない場所を数百ヤードも進まなければならなかった。しかし…

精霊たちの庭

「精霊たちの庭」 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ著 前川道介訳 ハヤカワ文庫FT 早川書房刊 を読む。 ドイツ・ロマン派の流れを汲んだ、教養小説。主人公の少年と少女には名前さえ与えられてはおらず、狂言回しのように、自然のダイナミズムの中を小さくな…

紫の雲…100

この決心をした後、ぼくはさらに一週間ヴォクレールに留まったが、これまでとはうって変わって、大変な努力家、転向者、謙虚な人間としてこの計画を詳細に練り上げ、そして全体図を描いて、掛け算、割り算、加算、円錐曲線、三角法、建築の期間の見積りなど…

紫の雲…99

ぼくは今となっては我が家のように思えるヴォクレールへと戻った。そしてそこで心の底からの深い良心の呵責を噛みしめていた。ぼくは創造主の御前で自分自身を恥じた。そうした状態が続いていた、あるうららかな日、修道院の門の前に座っていたぼくに、何か…

紫の雲…98

そうして四ヶ月後のある朝、ぼくは自分の小部屋の中で目を覚ますと、自分が夜通しモンポルトの街を燃やしていたということで身を切るような呵責に苛まれた。そしてこのつつましい小部屋で後悔に身を焦がし、それに耐え忍ぶため二日間というものほとんど何も…

ラッシュライフ

「ラッシュライフ」 伊坂幸太郎著 新潮文庫 新潮社刊 を読む。 推理小説ではなく、ジム・ジャームシュの映画「ミステリー・トレイン」などのような、いくつもの人生が最後に一つの光景の中に重なり合うという構成の、群像喜劇。一番最初に、金で買えないもの…

紫の雲…97

暖かい日は、ぼくは正門のところにチャンセル(内陣)から彫刻の施された大きな椅子を持ってきてそこに据えつけ、魂を休ませ、何も考えないようにして、何時間もウトウトとしたり、煙草をふかしたりして過ごすことが習慣になった。眼下の平原には、美味しそ…

紫の雲…96

ぼくはそこに、何かに追い立てられるまで、四ヶ月滞在した。ここで発見した遺体は全部で五体のみで、神父や修道士たちにいったい何が起こったのかは分からなかったが、ぼくはそのうちの四体を、二度の遠出の際に車に積んで、離れた場所にあるサン=マルシア…

紫の雲…95

ぼくが思うには、「Vauclaire」という単語はラテン語の「Vallis Clara」あるいは「Bright Valley」の転訛に他ならないのだが、それはl'sとu'sはこのように変換されるのだということを思い出したためだ。chevalはchevau(x)'になり、複数形ではfool' が'fou'の…

紫の雲…94

「近くの星々へと向けて、ひとつのシグナルを」という言葉をぼくが書き記したのは、十四ヶ月ほども前のことである。ロンドンの破壊の数日後、ぼくは久々にボレアル号に乗り込んで、フランスの海岸線へと向かった。いくら穏やかとはいっても夜は暗く、船と衝…