2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・37

歩きながら、ふと草原に目を遣ると、その揺れる仄かな光の隙間に、小さな家を見た。この辺りにまで、家はあるのだと私は思った。家は石ころのように小さく、窓に灯りはない。立ち止まった私に、彼女が並んだ。私は彼女の裸の腰に手を回した。そうして、塔に…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・36

あの果実は、《新しい太陽》を孕んでいます、と彼女は言った。太陽は、決して滅びはしません。古い太陽が燃え尽きると、代わって、新しい太陽がその役目を継ぎます。ですが、それは交代であると同時に、再生でもあります。なぜなら、《新しい太陽》の胎内に…

蜘蛛の家

「蜘蛛の家」 ポール・ボウルズ著 四方田犬彦訳 ポール・ボウルズ作品集Ⅳ 白水社刊 を読了。 それほど沢山の作品を読んでいるわけでもないが、ボウルズの作品には、いつでも絶大な信頼がある。僕にとってボウルズは、替えがきかない作家の一人だ。 初めて読…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・35

《新しい太陽》? ええ、と彼女は言った。時が満ち、全ての準備が整った。後は、生まれるのを待つだけ。 彼女は私の身体に腕を絡ませた。そして、私の肩に口付け、歯を立てた。 あなたのおかげよ。 私の? ええ、と彼女は言った。そう。あなたが種を蒔き、大…

尾崎豊

仕事から帰って来て、新聞を読んでいた時、小さな記事に目が止まった。 尾崎豊が亡くなった場所に隣接した民家をかつて「尾崎ハウス」として開放していた方の記事だ。それを読みながら、そうか、今日は尾崎豊の命日なんだと思った。 もう、何年前だろう。十…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・34

太陽が死に絶えた?いったい、太陽が死ぬなどということがあるのだろうか……? 彼女の瞳は、じっと私に注がれていた。その瞳は、揺れる事もなく、私を見据えていた。私は耐え切れず、窓の外に目を遣った。 まるで城壁に穿たれた銃眼のような窓から見える外の…

トオイガッコウ

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・33

見せなかったのではなく、見せることが出来なかったのです、と彼女は言った。なぜなら、私たちは別の時間にいたから。そして今、ようやくわたしとあなたの時間が重なったのです。 私は言った。時間の話は、これまでにも何度も聞いています。あなたからも、そ…

ウィーランド

昨日から、風邪と偏頭痛でまともにものを考えられないでいるが、ちょっとだけ落ち着いたので、先日読んだ本のことを少し。 「ウィーランド」 チャールズ・ブロックデン・ブラウン著 志村正雄訳 世界幻想文学大系3 国書刊行会刊 を読む。 「アメリカ小説の父…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・32

懐かしい彼女だった。横を向いていたから、一層身体の線が優美に見えていた。声が詰まって、何も言葉が出て来なかった。だがその一瞬が過ぎると、今度は声を出すと彼女が幻と消えてしまいそうで、声を出すのが躊躇われた。余りにも長い間、私は一人で過ごし…

オトラントの城

「オトラントの城」 H.ウォルポール著 井出弘之訳 ゴシック叢書27 国書刊行会刊 を読む。 1764年に刊行された、ゴシックロマンスの先鞭として名高い作品。「オトラント城奇譚」という邦題で平井呈一氏によって訳されたこともあり、そちらの方が名前としては…

国立科学博物館

昨日は、科学博物館へ出かけた。 改装を経て、ここは本当に見所のある博物館になったと思います。 新たに設置された、シアター360は、これだけのためにここに出かけても損はないくらい。これは、愛・地球博で披露されたものを移築したものですが、新たなプロ…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・31

何日分もの夜が過ぎた。太陽は姿を見せなかった。闇に閉ざされた塔の中を、ランプの灯りだけで行き来するのは、骨が折れた。だが私は、毎日の勤めだけは欠かさなかった。その来れば分かるとあの男は言ったが、この闇が「その時」であるとは思えなかった。だ…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・30

白の樹にナイフで傷をつけると、白い樹液が流れる。それは甘いミルクの味がする。私の一日は、その樹液を集め、火にかけて暖めて、窓際で太陽が東から昇ってくるのを見ながら、ゆっくりとそれを味わうことから始まる。それが長い間の習慣になっていた。だが…

ヴァテック

「ヴァテック」 ウィリアム・ベックフォード著 私市 保彦訳 バベルの図書館23 国書刊行会 を読む。 とはいえ、これは上・下巻に分かれていて、正編が上巻、挿話が下巻となっているのだが、僕は怠けて上巻しか読んでいない。 千夜一夜物語風の、背徳の果ての…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・29

淡々と、日々が過ぎていった。キャビネットの二段目の引き出しの種がすっかりなくなり、三段目に入った。塔の書架からは、また数十段分書物が消えた。塔の一番下から上を見上げた時、がらんとした棚が並んでいるのを目にすると少し寂しくなったが、それ以外…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・28

塔での生活が再び始まったが、もはや迷いはなかった。私の行為に意味が齎されたのだ。この現象が指し示すところは明白だった。この塔を中心として、町が生まれようとしているのだ。私の為すべきことは、それを待つこと。まさに、かつてあの影のような男が言…

蹲る塔

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・27

七色の樹には、それぞれに実がなった。種類は多様で、甘い果実もあれば、穀物として利用できるものもあり、さらには、塩分を多く含んだ不思議な果実もあった。この塩分を含んだ果実は、青い樹から取れる実だったが、擂り潰してその絞り汁を煮詰めると、塩が…

悪魔の恋

「悪魔の恋」 ジャック・カゾット著 渡辺一夫訳 世界幻想文学大系1 国書刊行会 を読む。 先だって、同叢書の収録作品「不思議な物語」を読んで以来、突如として、幻想文学の古典を読んでおこうという気になった。で、この「世界幻想文学大系」を読み始めた。…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・26

時が流れに流れ、またさらに流れた。時間は次第に現実感を失い、私にとって、もはや一日も一週間も変わらなかった。現実も夢も書物の中の世界も、境界線が曖昧になって、溶け合いつつあった。あれほどあったキャビネットの中の種も、一段目の引出しはすべて…

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・25

その光景を目にした時の喜びは、この塔に居を定めてから味わった最大の喜びだった。草木とはいえ、私が手をかけることによって、新しい命が生まれたのだ。日常に、確かに潤いがもたらされたことを感じた。私は芽の数を数えながら、ぐるりと塔の周りを一周し…