一九三四年冬―乱歩



「一九三四年冬―乱歩」 久世光彦著
創元推理文庫 東京創元社刊

を読む。

 江戸川乱歩には「悪霊」という未完の長編がある。雑誌「新青年」に連載されたものだが、先を考えずに書き始めた上に、ひどいスランプに陥って、読者に対して「先が思いつかない上に、今のところどうしてもこれ以上書く気がしないので、一時中断します」との詫び文を掲載したまま、結局続きを書かないままで終わってしまったものである。この久世光彦氏の「一九三四年―乱歩」は、その中断の後にしばらく姿をくらましていた時の物語である。
 一読して、とてもおもしろかった。国内外のさまざまな幻想文学の古典について、乱歩の口を借りて、作中で様々な言及があるのも、密かな読みどころだ。どうやらアーサー・マッケンの「夢の丘」を意識して書かれたところもあるようだが、そのあたりが、何と言うか、絶妙だった。物語自体は、どこまでが現実か幻想か分からないもので、結末も通常の小説の結末とはやや異なったものだから、創元推理文庫に入っているから推理小説だろうと読み進めて騙されたような気分になる人もいそうだけれど。